2024/9/26

高齢者と不動産売買契約をするときの注意点とは?「意思能力」について不動産特化弁護士が解説。

はじめに

日本では高齢化が急速に進んでおり、今後も高齢者が関わる不動産取引が増えることが予想されます。しかし、高齢者との取引には、他の取引にはない特有のリスクがあります。その中でも特に重要なのが、トラブルが発生しやすい「意思能力」の問題です。

意思能力とは、契約を結ぶ際にその内容を理解し、自ら判断できる能力のことを指します。そして、民法第3条の2は、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と定めています。

せっかく不動産売買契約を締結したのに、後から「無効だ!」などと言われたら、たまったものじゃないですよね。例えば、既に当該不動産を転売していたら、、、?考えただけでも震えてしまいます。

そこで、今回は、かような無効リスクのある高齢者との間の不動産売買取引について、注意すべきポイントを解説します。

意思能力の判断における確認項目と方法

意思能力の有無が争点になる場合、宅建業者の皆様が、なぜ意思能力ありと判断したのかに関する証拠が必要となることがあります。

契約を安全かつ確実に進めるために、最初の面談から契約の締結まで、次のような内容を聞き取り、観察し、必要に応じて介護関連の資料などを確認しながら情報を収集しましょう。

まずは、年齢、生活状況、過去及び現在の健康状態、介助・介護・病歴、取引動機・目的、売却物件の(自宅を売却する際)自宅売却後の居住計画などについて質問して下さい。

そのうえでその応答については資料へ記録・(事前承認の上)会話録音・親族等の立会など複数の方法を検討して、保存して下さい。

(1)聞き取るべき内容

宅建業者は、本人や親族から以下の内容を聞き取ることが求められます。

  • 年齢: 高齢者であること自体が、意思能力の低下リスクを示唆するため、重要な情報です。
  • 契約動機: 契約の目的や背景を確認し、その理由が合理的かどうかを判断します。
  • 生活状況: 日常生活の自立度や支援の有無など、生活環境を確認します。自宅を売却される際には自宅売却後の居住計画も確認しましょう。
  • 健康状態: 身体的および精神的な健康状況を把握し、意思能力に影響を与える要因がないか確認します。現在の健康状態のみならず過去の健康状態も聞きましょう(介助・介護・病歴も含みます)。
  • 成年後見人の有無: 既に成年後見人がいる場合は、その役割や権限について確認します。
  • 取引代理人の有無: 高齢者本人が取引を行うのか、それとも代理人が関与しているのかを確認し、代理権限が適切かを確認します。

(2)判断の目安(日常生活自立度と要介護認定度)

意思能力の有無を判断する際には、面談時の様子や任意で提供された介護資料などが参考となります。具体的には、日常生活自立度Ⅲ以上、または要介護認定度3以上に該当する場合、意思能力が低下している可能性があるとの報告があります(後述の参考資料参照)。このような場合、意思能力の低下が疑われるため、より慎重な対応が必要です。

(3)意思能力に問題がある場合の対応

意思能力に問題がある(と感じた)場合、次のような対応が求められます。

  1. 成年後見制度の利用: 少しでもリスクを感じた場合には、成年後見人を立てたうえで契約を進めるのが望ましいです。
  2. 取引の動機や目的の詳細な確認: 契約の動機や目的に不自然な点がないかを徹底的に確認し、可能であれば相続人となる親族にも同意を得ることが望ましいです。

まとめ

日本がますます高齢化する中で、高齢者が関わる不動産取引の機会は今後さらに増えていくと考えられます。不動産取引において、宅建業者には取引を確実に進めるための事前調査や確認が求められますが、特に高齢者との取引では、意思能力の有無を慎重に確認することが重要です。

高齢者の意思能力の判断は非常に難しく、明確な基準がないため、宅建業者としては細心の注意を払う必要があります。万が一、意思能力のない高齢者が取引を行い、後にトラブルに発展した場合、宅建業者がその責任を問われる可能性もあります。ですから、取引の過程で少しでも不安を感じた場合は、契約を進める前に成年後見制度などの法的措置を検討し、安全な取引を目指すことが望ましいです。

また、多くのトラブルは、親族間で不公平感が生じる取引に端を発していることが少なくありません。意思能力の確認に加えて、取引の動機や経緯、内容に不自然な点がないかをしっかりと確認し、将来の相続人同士のトラブルを未然に防ぐことが最も重要です。

高齢者との不動産取引には独特のリスクが伴いますが、適切な対策を講じることで、信頼できる安全な取引を実現することができます。

参考資料:

(公社)神奈川県宅地建物取引業協会の平成29年度研究報告書 『高齢者の不動産取引の問題と対応』では、「あくまでも判断の目安の一つですが、前述の資料や面談のなかで要介護認定度3以上または日常生活自立度Ⅲ以上(表1参照)の症状に該当していると意思能力も退化している危険があるとされます」と報告されています。一つの参考になります。

https://kanagawa-takken.or.jp/association/training/seminar/892

プロフィール

西明 優貴

森下総合法律事務所代表弁護士
昭和63年富山県生まれ

不動産に特化した弁護士として、不動産企業や投資家の悩みを迅速に対応している。

司法試験に上位4%で一発合格し、7年目で独立開業。1日最大5件の法律相談を受け、特にスピードが求められる案件で高い評価を獲得。数千万の賠償事案も数ヶ月で解決した。顧客からは「我が社が依頼する弁護士で、今一番仕事が早いのは西明」と評される。

業界大手からの相談も受けており、売買、仲介、賃貸、管理だけでなく、借地、火災・漏水、破産管財などにも幅広い守備範囲で対応する。

実績としてフジテレビ「ノンストップ!」解説、東京地裁破産管財人選任など。

東京弁護士会所属

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